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andna仲間のリレーエッセイ

小さな足と歩いた、やさしい山道

ノーサイド統括 高木康弘 

チームケア株式会社が運営するノーサイドで統括をしています。 赤ちゃんから大人の方まで──重症心身障がいのある方も、発達に遅れのある方も、 あらゆるハンディキャップを持つすべての人の役に立ちたいと29歳のときに福祉の世界へ飛び込みました。 尊敬する仲間たちと共に、一人ひとりの“できる”を信じ、支援を積み重ねています。 日々の中で生まれる笑顔や成長の瞬間が、仕事の原動力です。 福祉業界に携わるすべての方を、心から尊敬しています。

河村さんから高木さんへの質問
Q
100万円を好きに使っていいよと言われたら、何に使いますか?
A
全社員総会を開催します!

日頃から現場の最前線で支援に取り組んでくれているスタッフたちに、心からの「ありがとう」を伝える時間をつくりたいと考えています。
子どもたちや利用者さん一人ひとりの笑顔の裏には、見えないところで努力を重ねている仲間たちの姿があります。
日々の小さな積み重ねが、ノーサイドを支える大きな力となっている──その想いをしっかり形にして伝えたいと画策しています。

熊野古道で出会った、やさしい時間

今回で3回目の熊野古道。
選んだのは、発心門王子から熊野本宮大社までのコースです。
全長7kmほどで、のんびり歩いても3時間くらい。アップダウンも少なく、小さな子どもと一緒でも無理なく楽しめる“熊野古道デビュー”にぴったりの道です。

歩きはじめるとすぐ、木々のざわめきと鳥の声が混ざり合って、山の中の空気がやわらかく身体に染み込んでいくのがわかります。
足元の石畳を見つめながら一歩一歩進むと、まるで自然と会話しているような気持ちになります。

すれ違う人たちは日本人よりも外国の方が多く、特にオーストラリアの人たちが目立ちました。
みんなそれぞれのペースで歩きながら、この道に何かを感じているんだろうなと思うと、同じ風を共有しているようで、不思議と親近感が湧きました。

途中で立ち寄った小さな茶屋。
軒先でおばあちゃんが「飲んでいきなさい」と手渡してくれた手づくりのしそジュース。
キンと冷たくて、ほんのり甘酸っぱくて……その優しい味が、疲れた身体にすっと染み込みました。
「昔から歩く人に出してるのよ」と笑うおばあちゃんの顔が、今でも浮かびます。

古い木造の家や、苔むした石畳。
どこを切り取っても絵になる風景で、歩くたびに“懐かしさ”が胸いっぱいに広がっていきます。
やがて鳥居が見えてくると、長く穏やかだった時間が少しずつ引き締まるような感覚に変わりました。
ここまでの一歩一歩をかみしめながら進み、熊野本宮大社に着いたときには自然と手が合わさっていました。

熊野古道は、ただのハイキングじゃなくて、“心が整う道”なんだと思います。
静けさの中に人のぬくもりがあり、自然の優しさがある。
そんな、心がやわらかくなるような時間でした。

上高地で感じた、あの夏の続きを

熊野古道の旅からしばらくして、もう一つ、ずっと心に残っていた場所を訪れました。
それが、憧れだった上高地です。

2019年、家族で行くはずだった上高地。
でも、あの年のコロナ禍で旅は叶わず、それからずっと心のどこかに残っていました。
「いつかきっと行こう」と思いながらも、なかなかタイミングが合わず……ようやくその想いが実ったのが、今回の旅でした。

バスを降りた瞬間に感じた、ひんやりとした空気。
風が頬をなでる感覚がどこか懐かしくて、“やっと来られたんだなぁ”と胸の奥がふっと温かくなりました。
標高1,500メートルの上高地は、夏でも驚くほど涼しくて、まるで別世界に迷い込んだみたい。
空気が本当にきれいで、深呼吸するたびに心まで澄んでいくようでした。
河童橋から見上げる北アルプスの山々はどっしりとした存在感で、奥穂高は雲の中に隠れたまま。
でも、その“見えない美しさ”がまた神秘的で、自然の前では人はただ静かに見守るだけなんだな、と感じました。

登山が好きで普段は金剛山によく登っていますが、今回は小さな子どもと一緒のゆるやかな散策。
アップダウンの少ない道をのんびり歩きながら、せせらぎの音や鳥の声に耳を傾けていると、登る時とはまた違う“歩く喜び”がありました。

途中で立ち寄った「嘉門次小屋」では、145年の歴史をもつ山小屋で手打ちそばと鮎をいただきました。
外に流れる梓川を眺めながら食べるその味は、旅の途中にふと訪れたご褒美みたいで、薪の香りと一緒に心まで満たされていきました。

嘉門次小屋の手打ちそばと鮎

そしてもう一つの感動は、水汲み場の湧水。
両手ですくった水は驚くほど冷たくて、ほんのり甘い。
まさに、山がくれた天然のミネラルウォーター。

白樺に囲まれた道を歩きながら、
「この景色を、また見に来たいな」と自然に思いました。
上高地は、ただの観光地ではなくて、心が静かに整っていく“癒しの場所”。
またあの空気を胸いっぱいに吸い込みに、きっと季節を変えて訪れたくなる——
そんな、心に残る旅でした。

自然の中に身を置くと、不思議と人の優しさを思い出します。
福祉の仕事もきっと同じで、誰かのペースに合わせて、ゆっくり歩くことが大切なんだと思うんです。
焦らず、比べず、寄り添いながら——
そんなふうに日々を歩いていけたら、それだけで十分しあわせですね。

上高地の河童橋

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~喫茶アンドナ店主 野村より~

高木さんとの出会いは、以前私が福祉の会社に勤めていた頃にさかのぼります。2013年頃、お互いに一般社会から障がい福祉の世界へと、ほぼ同時期に足を踏み出したのです。

福祉未経験からスタートされ、今や8施設を経営される若き起業家。
髙木さんの魅力は、そのパワフルなエネルギーと柔軟な発想力。従来の「福祉」イメージに捉われない軽やかな感性が、福祉の世界に新しい風を吹き込み、斬新なチャレンジを実現する原動力なのだと感じています。
高木さんは、福祉業界における「異端児」であり、同時に道を切り開く「開拓者」のような存在です。

そんなノーサイドさんとアンドナは、相性抜群。私の突飛な提案にも、いつも「やりましょう!」と二つ返事で受け止めてくださる、本当に心強いパートナーです。
これからも、固定観念にとらわれない「新しい福祉」のカタチを、ノーサイドさんと一緒に「楽しみながら」創造していけることを、心から楽しみにしています!

Q
高木さんから次の方への質問

大人になったなと感じた瞬間はどんな時ですか?